【しげをサイエンス】精神的成熟の神経科学的説明

購読者の皆様、本日も当コラムにごアクセスいただき誠にありがとうございます。

しげをです。

本日のテーマは『精神的成熟の神経科学的説明』というテーマで切り込んでいきます。

昨今『こどもおじさん』だの『こどおじ』などの造語ができてしまうほど精神年齢が低くなっている方が増えている印象があります。なぜこのような人が増えているのでしょうか?このような人はどうすることもできないのでしょうか?

今回は神経科学の側面から、解明していきましょう。

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1、精神的成熟とは

偉大な数学者である岡潔が随筆に書いていた”正しい人生とは無明(宗教語で生きようとする盲目的意志を意味する)を押しのけていくことである”ということが、若いとき妙に気になっていた。

このような戒めや教訓というものは精神的成熟がない限り本当に理解することは不可能なものであり、神経科学的にどのように説明できるものかは興味ある問題であった。今日は岡潔の教訓を神経科学的に考えていきたい。

2、ヒトの行動基盤である脳神経回路とシナプス数

良き人生は正しい行動から発生するものであり、正しい行動は精神的成熟無くしてはあり得ない。精神的成熟とは間違いなく脳の神経回路の一つの様態であり、この脳の神経回路の理解なくしては戒めや教訓は教えのままにとどまり、それがヒトのどこから来ているのかなどの本質的な議論は進まないのである。

上記の二つの図(発達変化、ヒトの一生と神経回路のスクラップ&ビルド)の中にある「ヒトの一生とシナプス数」に注目してもらいたい。

なんと、脳神経回路の大きさを示すシナプス数は幼児期(約1歳)の時に最大なのである。その後は、10歳程度になるまで神経回路におけるシナプス数は減少していき成人期ではほとんどシナプス数に変化はないのである。

老年期になるとシナプス数は減少していき、極端な場合はアルツハイマー病のような自分を認識できないような状態になるまでシナプス数が減少することもある。

このようにシナプス数だけに着目すると、誕生後1歳の時が最大で後は一定か減少するだけであり、年齢と共に成熟どころか退化していくだけなのである。しかし、赤子より大人の方が明らかに精神的に成熟しており、精神的成熟がシナプスの数だけでは説明できないということを意味している。

3、精神的成熟を支えるシナプス結合強度とシナプス消滅

シナプス数が精神的成熟を説明できないならば何が成熟を支えているのであろうか?それは、主に次の二つの要素である。

①シナプス強度    ②シナプス消滅

まず、①シナプス強度について説明する。

シナプスは存在しているだけでは機能しない、シナプスが結合し、神経回路の中継地として機能を果たすことにより神経回路が行動の基盤となれるのである。これは、環境からの刺激により成し遂げられ、強いシナプス強度は何回も刺激を与え続けることにより達成可能である。学習で記憶回路を強固なもの(つまり忘れないようにすること)にしたければ何回も同じことを繰り返すことである。

但し、この学習効果は道徳的に良いことも悪い事にも両方に寄与する。学習効果は勉強などの良い面だけでなく、犯罪、非行などの悪い面の記憶も強化するのである。また、幼児の時に存在していた神経回路も環境からの刺激が無ければ、結合がさらに弱くなり、最後にはシナプスが消滅してしまう。これが②のシナプス消滅である。

シナプスは常に生成と消滅を繰り返し、図でのシナプス数は生成と消滅の結果としての数である。従って、成人期のシナプス数が一定であることは同一のシナプスが存在しているのではなく、生成数と消滅数が大体同じだから一定なのである。老年期にシナプス数が減るのは消滅数の方が生成数よりも多いからである。

では何故、発達期(幼年期)にシナプス数が減るのであろうか?

それは、正しいことを行う神経回路のみを残して、悪い行動を誘発する神経回路を消滅させるためである。

つまり、1歳時点ではあらゆる可能性が幼児にはあるのであり、良くなる神経回路を選ぶこともできるし、悪事を働く神経回路を強化することも可能なのである。

大人の子供に対する責任は良い神経回路を残して、悪い神経回路を消滅させることなのである。

10歳程度までの教育がいかに重要であるかが、この説明で理解できると思われる。この時期に、いろいろの理由で悪い環境で生活せざるを得なかった子供は悪事の神経回路が形成され大人になっても、その回路が作動し悪事を働いてしまうのである。

4、”人生は無明を押しのけていくこと”の神経科学的説明

無明は生きようとする盲目的意志であるので、良い悪いの判断はない。つまり、1歳の幼児にはどのような可能性も開かれているのである。

ここから、社会に受け入れられない行動を起こす神経回路を10歳までに消滅させなければならない。これを成しえるのは大人が教える教育なのである。無明と呼ばれる受け入れ難い行動の源となる神経回路はこの時期に消滅させることが理想である。

次の成人期には、消滅させることができる神経回路はずっと減少する。

すでに、幼児期に神経回路が出来上がってしまっているからである。しかし、この時期にもシナプスの生成、消滅は可能であるので、努力次第で新しい神経回路を生成し、悪いまたはいらなくなった神経回路を消滅させることは可能である。

しかし、悪い神経回路が残っているヒトは、無明の作用が非常に強いので、悪事を働く誘惑にかられてしまい、犯罪を起こす可能性が高いのである。どのような人にもこの無明は存在するので、悪い誘惑を打ち消すことはその脳神経回路を働かせないようにしなければならないという意味で非常に大変なのである。従って、”人生は無明を押しのけていくことなり”という教訓が発せられたのであろうと思われる。

5、まとめ

脳のシナプス数が1歳で最大であり、人生の経過に従って減少していくという現実があるので、何を捨てていくかということがヒトに任されたのだと思われる。無明という人生の無限の可能性の中で社会に有益なものだけを残し、悪いものは消滅させるという理想を岡潔は言っているのだと私は思っている。

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