【しげをサイエンス】脳を操ることができる光遺伝学

2020年12月23日

購読者の皆様、本日も当コラムにごアクセスいただき誠にありがとうございます。

しげをです。

本日のテーマは『脳を操ることができる光遺伝学』というテーマで切り込んでいきます。

皆さんもしたいですよね、洗脳。あら、そうでもない?笑

洗脳と聞くと口先三寸で相手をその気にさせて気づいたら洗脳されていた~という光景をイメージされると思いますが、実は、光を脳にあてることによって物理的に洗脳できるかもしれないんです!恐ろしいですねぇ!

今回はそんな洗脳と光遺伝学の密接な関係について下記に述べているので早速見ていきましょう。

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1、脳を操る方法

他人の脳を操る方法はいままではすべてマクロ的な方法であった。

洗脳、催眠術、演説、恐怖体験など主に言葉を使い脳神経回路の聴覚から情報を入れ、特定の脳神経回路を思いのままに操作することであった。

犯罪の大部分はこの脳を操作することがベースにあり、そこから加害者に有利な行動を被害者におこなわせるものである。詐欺などはこの典型的な例であり、被害者の思い込みは加害者が行う被害者の脳操作以外の何物でもない。

このような脳の操作の基本には心理学があり、心理学の中の無意識(フロイト、ユングなどにより提唱された)に備わっている種々の反応を利用しているとされている。

例えば、犯罪者が金銭詐欺を行うとき、銀行員の制服のようなものを着て視覚で被害者の思い込みを誘うとか、警察官の恰好をして被害者を安心させるのは、被害者は銀行員や警察官ならば詐欺はしないという無意識の先入観があるからで、無意識の利用による脳の操作以外の何物でもない。この無意識の反応はヒトに先験的に(生まれつき)備わっているものであり、その原因は心理学で解明することはできない。

しかし、ヒトは生物であり無意識の反応のような心理学的反応のすべては脳という物質から生み出されることもまた事実と認めなければならない。

そんな背景もあり、精神的な反応を心理学でなく生物学的な基盤から解明することがヒトゲノム計画が終了した2000年以降飛躍的な勢いで進歩してきた。

何故、ヒトゲノム(DNAのすべてを示す)解明が重要かというと、ヒトの遺伝子(2万4千個あり、塩基配列、機能が同定されたが機能が不明のものも多くある)の多くが突き止められたからである。

このような生物学の進歩を背景にして、心理学的な反応を起こすある特定の遺伝子に働きかけ、そこから生成されるタンパク質によりある特定の神経回路を活性化させ、マクロ的な行動を生じさせ様とする研究者が現れても何ら不思議ではない。

この中で最も重要なことが ”ある特定の遺伝子に働きかけ、ある特定の神経回路だけを活性化したり不活性化させる” であるが、これを可能にする一つの方法が光遺伝学なのである。

2、光遺伝学とは

 

光遺伝学とはヒト以外の生物が有する光に反応する遺伝子をヒトの特定の細胞の中に組み込み、この導入遺伝子から生成するたんぱく質を光によって活性化したり不活性化することで、ヒトの遺伝子を操作する技術である。

最初この技術は、神経細胞に適用させられた光作動性のイオンチャンネル、イオントランスポーターを神経細胞内に発現させ、神経細胞の神経活動を光によって人為的に操作することができるようになったことから発展を遂げてきた。

つまり、その細胞に光を当てると神経細胞がヒトの意志とは関係なく活性化や不活性化し、光を当てるヒトの意のままになるということを意味している。

これはヒトを洗脳する場合を考えると、従来は言葉や恐怖などの心理学的手法で行っていたものを光という純粋に物理的な方法で脳を操作=することを意味している。

実際の例として、アカパンカビから採取した光反応性遺伝子と他のタンパク質を結合させたものをマウスの神経細胞の中に組み込むことで、光操作が可能なたんぱく質が新しく神経細胞のつなぎ目になっているシナプスのところに集まり、そこに光を照射することで、神経細胞を活性化するCaイオンチャンネルが不活性化し、Caイオンが細胞内に入り込まなくなることにより、何もしない神経細胞に比較して明らかに神経活動が低下したことが報告されている。

以上のように、光遺伝学は神経活動を自由に操作できる可能性を有するということで、重要な技術であるが、脳の中には無数の神経回路があるはずでその中の特定の神経回路をどのようにして光操作するのだろうかという疑問が湧いてくる。

3、光遺伝学の将来性

光操作できるヒト以外の生物からの遺伝子も見つかっているし、それを細胞内に遺伝学的に組み込む方法(ウィルス、プラスミドといったキャリアーを使う)も確立しているが、光遺伝学の技術を最も有効にする方法はゲノム編集を使う方法であると思われる。

ゲノム編集の最も優れている点は、目標とする遺伝子のDNA配列がわかっているとしたとき(これはヒトゲノムプロジェクトで解明済みである。)、特定のDNAに対応するRNAを人工的に作り、DNAを任意の位置で切断できるCRISPR-Cas9と結合させ、結合体を細胞内に送り込むと目標のDNA位置で切断が可能なことである。

そこで、光操作したい特定の細胞に光操作遺伝子ーガイドRNA-CRISPR-Cas9結合体を組み込むことにより、DNAの中に光操作遺伝子を組み込むことが可能となるからである。この後にレーザー光でその細胞を照射することによりその細胞が寄与している神経回路を活性化させたり、不活性化させたりすることが可能になると思われる。実際、シロイヌナズナに由来する光操作可能な遺伝子(CRY2-CIB1)をゲノム編集技術で目標の遺伝子に送り込み、光で神経系を操作できたという実験結果が報告されている。

光遺伝学の神経細胞適用の本来の目的は統合失調症やPTSD(外傷後ストレス)などの研究や治療であるが、同時に、脳の操作という危険性も含んででいるのである。

4、さいごに

いかがだったろうか?光遺伝学、無限の可能性を秘めている学問だとは思わないだろうか?

光遺伝学は始まったばかりであるが、神経科学以外に細胞内でセンサーとして光遺伝子を使うことができるので、分子局在、遺伝子発現、細胞シグナル、細胞骨格などにも適用が検討されている。

このような応用が広がれば神経活動以外に個体の細胞機能・生体機能の光制御が可能になるかもしれない。

前述の通り、この技術を洗脳に使うのではなく、ボケ防止に使うなど有益に利用してほしいものである。

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